『何とかという人は』 







静かに月へ向かう魔導船の操舵室、そこでセシルとカインが向かい合って座っていた。
とは言っても今は自動運転、彼ら二人は何をする訳でもなく、ただ休憩室から持ってきた椅子にぼーっと座っている。久し振りに突き合わせた顔だ、しばらくして、セシルがおもむろに口を開いた。

「まぁ、カインが無事で良かったよ」

カインは傾けていた首を真っ直ぐに戻した。おそらく、ゴルベーザの所にいたときのことを言っているのだろう、無事も無事、手駒であったのだから、と彼はセシルの意図を掴みかねて曖昧に首を振った。
セシルはその反応に頷いた、何か彼の中では完結したようだった。

「でも・・・兄さん、というのはホント、びっくりしたな」
「・・・まあな」

何とも言い難く、カインは今度は適当に相槌を打った。びっくりしたのは自分もだ、まさかセシルの兄とは思いもしなかった。いや・・・思い返してみれば、覚えのある言動も見えた・・・気がする。だがしかし、後になっての話など参考にもなるまい、記憶はしばしば勝手に改ざんされる。
そうカインが一人考えていると、セシルは背もたれに寄りかかっていた身を起こして、カインに向き直った。

「何か・・・話を聞きたい。カイン、ゴルベーザについて教えてくれないか」
「ゴルベーザ・・・について?」

うっかり「さま」とか付けそうになったのを飲み込んで、カインはオウム返しに聞き返した。
確かに彼としばらく共にいたカインは、セシルより多くの情報を握っているはずである。急に洗脳が解けたと言われても、彼を知らぬ身には信じられない条件が多すぎる。・・・と言っても、だからといってカインがそういう個人事情を知っているかどうかは別であるが・・・。
問われたセシルは大きく頷いた。

「そう、主にゴルベーザの「恥ずかしい話」を」
何で恥ずかしい話?!情報じゃないのか?」
「いや、人間そういうところに本音が出るもんだからさ」
「・・・。」

至極真面目にセシルが言い返す。本心かどうかはいざ知らず、日頃彼のボケに振り回されている身としては言葉通りに受け取るわけにもいかない。
どう答えようかと彼が思案している内に、休憩室からエッジが降りてきた。セシルが問うに、リディアとローザは未だぐっすり眠っているらしい。暇な時間だ、エッジはセシルに勧められるままに空いている椅子に腰掛けた。

「なんだ、大事なお話中か?」
「いや、構わないよ・・・今ね、「ゴルベーザの赤っ恥」をお題にトークしてたんだ」
してない!!いつの間にそんなお題になったんだ?!」
「へぇー、面白そうじゃねぇか」

エッジはそういうと、少し二人に断って席を立った。二人がしばらく待っていると、やがて飲み物と茶菓子を厨房から運んできた。
早速甘いものに手を伸ばしたセシル、彼は手の大福を一口かじると、再びカインに顔を向けた。

「例えばさ、自分で掘った落とし穴にはまったとか」
「アホかセシル、あのゴルベーザだぞ」

瞬時にエッジがつっこむ。

「だって・・・僕の兄ならそういうおいしいことやってくれるかと」
「いや、おいしいこと、じゃねえよ。何でネタを求めてるんだよ」
「そうだぞセシル、あのゴルベーザがまさかそんなこともにょもにょ・・・
言葉を濁したーー!!!

威勢良く言い返したはいいが、カインの語尾は風に紛れて消えていった。室内なのに。つまり落っこちたのか。それを聞いてセシルは「やっぱりね」と溜息をついた。やっぱり?

「カイン、覚えているかい?君がご丁寧にも僕の部屋の前に画鋲を撒いていってくれたあの時」
「ああ、そのあと見回り兵に刺さって、すわスパイ潜伏中か、ってなった時だな」
「お前ら、本当もうなにやってんの」
「僕も君用に掘った落とし穴に落ちました」
「「落ちたのか?!」」
「しかも二回も」
「「学習しろ!!」」

カインとエッジのツッコミが綺麗にハモる。というかそもそもそこに至る経緯がエッジは非常に気になったが、古き日のしがらみを思い起こさせて良い結果に終わるはずがないことは目に見えている。
エッジが懸命にも言葉を押さえたところで、「やはり兄弟だな・・・」と呟くカインの声が聞こえた。

「いや、関係ないから、兄弟とか関係ないからそう言う所は!」
「はい次。その程度で終わる君じゃないだろカイン」
「なんで挑発するんだよ!」
「そうだな・・・ゴルベーザさま・・・ーソルトは」
「何ゴルベーザサマーソルトって」

ついうっかりセシルのいい加減な挑発に乗ったカインは口を滑らせた。さまって言っちゃった末の誤魔化しである、しかし非常に無理がある。格闘技・・・

「どうでもいい、とにかくゴルベーザは言いにくい」
「ああ、そうね、言いにくいな」
「じゃあいいじゃないか、ベーザで。ベーザ・ファレルみたいで」
今すぐファレル家に謝れ!!
・・・というかローザに!!
ごめんなさい!

セシルの提案、ヒロインと実の兄の名前を被らせるという荒技に二人は心一杯反論した。ベーザはともかく、姓を付けるなと言う話。セシルはさすがに危ない、と思ったのか即座に謝ったが、直後「ホールド・・・ドリゲス」という声が聞こえてきた。ホールドじゃなくて良かった・・・と三人は安堵したが、ドドリゲスに気を取られた。なんという誤魔化し方。

「で、他にはないの、ベーザドリゲスの赤っ恥」
「無理矢理過ぎて訳わかんねぇぞそれ」

気を取り直して、とセシルはカインに再び尋ねた。問われたカインはしばらく腕を組んでいたが、やがて何か思い出したのかおもむろに口を開いた。あとドドリゲスはザの誤魔化しには効かない。というか誤魔化す意味はない、とエッジが突っ込んだ。

「赤っ恥というか・・・」
「何?」
「四天王の真ん前で、入り口につっかえていたな。鎧の出っ張りのせいで・・・」
「・・・」

それは恥ずかしい。エッジは思わず息を吐いて沈黙したが、セシルの方は何とでもない、というように首を振る。

「なんだ、そんなのだったら僕だってあるよ」
「いや、普通無いだろ、機能重視で鎧着ろよ」
「やはり兄弟か・・・」
これも兄弟とかないから!!

やっぱりセシルもやっていた、鎧のせいでつっかえる。エッジのツッコミは至極もっともなことであったが、今更どうにもならない。あと兄弟とか本当関係ない。唸るカインとツッコミエッジを他所に、セシルは昔を懐かしむように話し始めた。

「あれは発注していた陛下の肖像画が届いた日・・・」
「バロンは、んなことやんのか・・・」
「やるぞ、というか、本来なら即位のすぐ後に渡されるんだがな・・・色々と事情があったようで、陛下は即位後しばらくして受け取っておられた」
「ふうん?」
「そしてその肖像画は、会堂の入り口あたりにちょっと出っ張って置いてありました」

カインも彼が何を話そうとしているのかは分からない、完全にセシルだけの思い出話だ。しかし状況の把握くらいはできる。会堂ではよく、トップの打合せが行われていたはずである。普通なら王の肖像画など入り口なんて微妙な位置になど置かず、奥の歴代国王の肖像と並べて飾られる。彼の話によれば、しかし折り悪く会合が長引き、働き手達は部屋の奥に入るわけにはいかなかったのである。それでなんとか入り口辺りに体裁をつけて置いた所で、呼び出されたセシルがその部屋に入っていったのだ。そして。

「ええ、絵につっかえましたとも」
「ああ・・・」

普段の意識通りにしずしずと歩み出た所で、見事に引っかかったという。静かな会合の間に、ガコン、という音が響いて僕は赤っ恥でした、とセシルが続けた。
カインとエッジは、聞いていて虚しくなってきた。何とも言えずに「あー」とか「うー」とか言っていたが、彼の話はまだ続いた。

「そして一瞬固まった連中に僕は言ってやった」
「・・・何を」
「「僕は陛下に仕えています!!」とね!」
「・・・え、いや、何?意味わかんねぇ」
「こうね、仕える、とつっかえる、を掛けて」
訳わかんねぇよ!!!説明を聞かなきゃ分かんねぇギャグほど悲しいものはない!」
「そして陛下は爆笑、上役たちはその陛下にドン引き」
陛下の赤っ恥話だったのか?!

いつの間にか本日の主役が交代していた。赤っ恥の主役はバロン国王です。カインは聞かなければ良かったと後悔したが、聞いてしまったものは仕方ない。彼を前に、セシルはちょっと勝ち誇ったような、してやったり顔を浮かべた。何故?

「つまりアレだね、ベーザにはオリジナリティがないよ」
「いや、赤っ恥にオリジナリティを求めなくていいだろ」

即座にエッジがつっこんだ、しかしカインは悔しそうな表情を浮かべた。なんにせよ、彼にバカにされるようなことはプライドが許さないらしい。その辺りセシルはカインの扱いに長けている、見事に焚き付けられたカインは、真剣な表情で記憶を手繰り始めた。
やがて、残された二人がしばらくぽりぽりお茶菓子を食べていると、唐突にカインが話し始めた。何か思い出したようだ、二人は耳を傾ける。

「俺が奴に拾われる前だ、ベーザは何かテーマ曲を外注したらしい」
「ああ・・・うん、ここは突っ込むべき所じゃないことくらい俺は分かってる」

あれ、あのパイプオルガンのやつ。ドワーフ城の地下あたりに発注したらしい、とカインがどうでもいい情報を付け加えた。本当どうでもいい。あとベーザが意外と早く定着した。やはり発音が似ているからか、ローザに。「それで?」とセシルが続きを促した。

「あの出だしだ、配下のやつらには「ベーザ、ベーザ、ゴルベーーザーー♪」と歌う奴がいたらしいが、片っ端から消していったらやがて廃れたらしい」
「俺はそいつらの勇気を称えたいぜ」
「ホントだ、そう歌えるね、ゴルベーーザーー♪」
「しかし、ある日ベーザの部屋に奴が一人きりでいる時・・・」

そこで一旦カインが言葉を切った。二人は思わず身を乗り出す。

「俺は聞いてしまった・・・ベーザがそっと「ベーザ、ベーザ♪」と歌っているのを・・・」
「「赤っ恥!!」」

それは悲しい。耳に残った歌詞をつい歌ってしまったらしい。カインは小刻みに震えていた、かつての主の醜態を悔しがっているのかと思えば、凄い笑いを堪えていた。意外と薄情な奴である。セシルは手に持つお菓子を食べきると、両手を挙げた。

「それはないな、完敗だよ。僕のテーマ曲ないし」
「ああうん、セシルがあっても困るよな」
「・・・まぁそんな所だ」

そこまで話すと、カインは一息ついてお茶を飲んだ。何か大きな秘密を話し終えた後のような、いっそすっきりした面持ち。その彼に向かい、セシルは大きく頷いた。

「要するに、ゴルベーザとは・・・僕の兄さんとは、穴に落ちたり、つっかえたり、ベーザ♪って歌ったりする人なんだね・・・勉強になったよ」
「あぁ、そうだ・・・えっ?!いや、そうだが!!
「なーんだ、意外とマヌケだなぁ」
「だな、セシルの兄貴ってのにも納得だぜ」
「あー、エッジ、ひどーい」

和やかにボケツッコミをしている二人、ここだけ見ればサ○エさん風ほのぼのオチに見える。が、十分ごとの短編で終わるサザ○さんとは異なり、残念ながらFF4の物語は連続的に進んでいく。

話を聞け!!赤っ恥の情報だけ集めてどうする!!
「あっ、もうすぐ月だ、情報収集完了ー」
かわいそうなゴルベーザ!!!

そうカインが叫んだ所で魔導船が大きく揺れた。着地に伴う衝撃だ、これから噂のご本人とのご対面。起き出してくるローザとリディアを前に、カインは和やかな対面になりそうでよかった、とプラスの方向で考えることにした。そうでもしなければゴルベーザが報われない。命張って闘っている最中にそんな認識がされているとは。

「さーあ、ベーザとフースーヤを助けに行こう・・・!(笑)」
括弧笑、じゃないだろ!!

・・・果たして本当に和やかな対面になるのか、それは会ってからのお楽しみ。











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